深夜

雨の夜は眠れないので、非常に難儀である。不眠には慣れてはいるが、脳内の循環は昼間とは違い唯々虚空を見つめたりしている。何の因果か、呼吸以外の体内活動は停止せざるをえず、喜怒哀楽も胃の縁の方に姿をくらます。

もうすぐ誕生日であるが、特に感慨はない。地球の自転で時間は計られているが、太古の昔には、我々が想像だにしなかった時の流れが存在していたのではないかと憶測する。一秒などという単位は現代社会の最たるもので、今しがたという数字に縛られぬ安らかな生の流れが、特に産業革命前までは存在していたのではないのだろうか。音楽史的に言えば、その頃の音楽、作曲や演奏もその影響を受けていたはずで、開演時間や演奏の長さも、今と比べて全くの別物であったに違いない。18世紀以前には、そのような、時間というよりも、なにか空間自体がたゆとう間々が人々の生活の根底に上がれていたのではとも想像する。それに倣って現代に生きる私も時間の概念をすり抜けて、一瞬云々さえ意識せず、なおかつ深夜の空気を唯々静かに呼吸するのみである。

誕生日が苦手である。一年が365日に区切られているのは私の裁量ではない。歳をとることにめでたさを感じることもない。只漠然と時が過ぎてゆく中で、世間が365日の中の一日を区切りとしているだけである。それ以上でも以下でもない。この一文を偶然読んだ方々よ、夢々私の誕生日を祝うことだけはされてくれるな。頼まれてもしないという方がいれば尚結構である。私が今一番考えなければならないのは、この365日の区切りの中で、永遠に目が覚めないのは何日かということのみである。その日がいつ来るかということの方が、誕生日などという催事?よりよほど重要である。

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